2008年03月14日

鳥インフルエンザに怯える中国進出 1万社 :読売ウィークリー引用

鳥インフルエンザに怯える中国進出1万社

 中国に進出している約1万の日本企業は毒ギョーザばかりか、新型インフルエン
ザ対策にも神経をとがらせている。

 中国が1月、人から人への鳥インフルエンザ感染事例を初めて公表したためだ。
北京五輪を控え、中国での感染事例は決して対岸の火事ではない。

本誌 秋本 宏


成田空港で行われた新型インフルエンザの検疫訓練。各地で警戒が続くが……(2007
年11月、関口寛人 撮影)
 「昨年暮れから中国に赴任する社員には抗インフルエンザ薬のタミフルを渡し
、駐在員に新型インフルエンザの対策と研修を実施しています」

 中国南部に事業所をもつ、大手機械メーカーの幹部はこう言う。

 中国政府が鳥インフルエンザの人から人への初の感染を公表したのは、1月10日
の記者会見だった。江蘇省南京市で昨年、相次いで息子(24)と父親(54)が鳥
インフルエンザウイルス(H5N1型)に感染し、うち息子が死亡した事案について
、「(家庭での)密接な接触によって感染した」と明かした。

 中国政府によれば2003年からこれまで26例の鳥インフルエンザ感染が確認され
、うち17人が死亡しているが、人から人への感染は初めて。

 H5N1型は、新型インフルエンザに変異する危険性がもっとも高いとされるウイ
ルスのひとつで、ウイルスが「新型」に変異すると、世界的な大流行が懸念され
ている。

 WHOの報告によれば、人への感染は1997年12月に香港で最初に確認され、その後
、2003年末より東南アジアを中心に流行。 06年5月にはインドネシア・北スマト
ラで家族(親族含む)内集団感染が発生し、8人が感染し、7人が死亡している。
鳥インフルエンザによる感染者は08年2月1日現在、世界で357人で、うち225人が
死亡している。

 新型インフルエンザの流行レベルは6段階あり、限定的な集団で人から人への感
染がフェーズ4、より広い範囲に連続して感染が起こった場合がフェーズ5。そし
て、世界的流行のパンデミック期がフェーズ6となっている。先のインドネシアの
ケースはフェーズ3で、フェーズ4に進むのをなんとかくい止めている状況だ。

 中国は、今回の感染事例について、「ウイルスの遺伝子の変異はない」と否定
した。しかし、感染した息子の感染源は明らかにされず、不明のまま。そのため
、この発表に不安を募らせる中国進出企業が多いのだ。

 中国に拠点をもつ日本企業はおよそ1万社あり、家族を含めると11万人が生活し
ている。冒頭の幹部が続ける。

 「今回、人から人への感染が明らかになったため現地では、新型インフルエン
ザ対策を強化しています。しかし、情報は現地では入りません。だから情報は東
京から送っています」

 現地に伝えているのは、上海や大連、天津など都市ごとの日本語で受診可能な
病院の独自リストなどだ。ただし、いざ大流行が始まった段階で、現地の医療機
関が、日本人を診てくれるかどうかは未知数だ。

350社が情報収集に懸命
 「企業の新型インフルエンザに対する意識も変わってきました。すでに会員企
業の中で約20の1部上場企業が、きめ細かい危機管理想定マニュアルを策定してい
ます」

 海外50か所の拠点で緊急医療支援に取り組む「インターナショナルSOSジャパン
」(東京・千代田区)の石井弘之ゼネラルマネージャーは、そう言う。

 同社は04年秋、新型インフルエンザに関する専門チームを立ち上げ、各国の衛
生当局などと密接なコンタクトをとって、海外を含めた会員企業の約350社に新型
インフルエンザ対策のコンサルティングを実施してきた。石井さんは言う。

 「フェーズ4なら国外退避まではいかないが、フェーズ5になったら国境封鎖に
なる。その場合の、継続性のある現地企業の事業資産減少や経済的損失、家族は
早期に帰国させるが、駐在事務所の責任者はどの段階で帰国したらいいのか。保
安要員まで引き揚げさせるべきかなど、企業からの相談内容は、より具体的にな
ってきている」

 家族向けのオープンチケットや、中国の工場への産業医派遣を検討する企業も
出ている。

 企業が、中国で危機感を高めている背景には、中国の鳥インフルエンザ対応へ
の不安がある。国立感染症研究所ウイルス第3部の岡田晴恵研究員は、こう言う。

 「ここ2〜3年、中国は患者検体をWHOに、円滑に提出していないのです。鳥から
人に感染する鳥インフルエンザが発症したときでも、中国は米国疾病予防管理セ
ンター(CDC)にのみ、時々、ウイルスを送るだけ。今回の人から人に感染したケ
ースも、WHOがウイルスを確認しているわけではなく、中国側の情報だけなのです


 つまり、ウイルスに関するデータはないまま、変異はなかったという中国の説
明を信じるしかないというのだ。

 中国政府は、ニワトリにまでワクチンを接種するなどして厳戒態勢をとり、北
京五輪までに、北京市内の144の病院に感染症専門のベット6350床を準備する計画
をすすめている。

取り組みまだ半数
 日本では、企業によって取り組みに関して温度差が大きい。

 「独立行政法人労働者健康福祉機構・海外勤務健康管理センター」(横浜市・
港北区)が06年9〜10月、海外に進出する日本企業2124社に行った調査によると、
回答した329社のうち、新型インフルエンザ対策に取り組んでいたのは126社(38
%)だった。

 その中身は、「マニュアルの作成」(50%)、「咳エチケットや手洗いの励行
」(49%)、「担当部署の設置」(44%)、「事業継続計画」(42%)、「タミ
フルの備蓄」(37%)、「日用品等の備蓄」(24%)、「流行時の在宅勤務計画
」(18%)、「通信手段の整備」(13%)など。

 同センターが昨年10月に行った2469社を対象にした同じ調査でも、「何らかの
対策がある」と答えていたのは、いまだ約半数(51%)にとどまっている。

 日本では05年11月に新型インフルエンザ対策行動計画を策定し、公表している
。それによると、国民の4人に1人が発症し、64万人が亡くなると推定されている
。が、その取り組み状況は、ワクチンの備蓄ひとつとってみても、カナダ、米国
、スイスなど他の先進諸国に比べて、十分とは言えない。

 岡田さんは、新型インフルエンザ対策は、「国防にかかわること」としたうえ
で、「国、企業、さまざまな機関にさらなる取り組みをお願いしたいが、流行が
始まった場合、被害拡大を防ぐには、外出をしない、準備に努めるなど、一人一
人の行動がカギを握る。家庭でもぜひ備えをしておいてほしい」と訴えている。




■もしものための備蓄品■
新型インフルエンザが流行したら、食料や日用品が調達できなくなる可能性が高
い。万が一に備えるなら、以下を参考にしてほしい。

●食料品
□米、切りもち、めん類
□砂糖、塩、しょうゆ
□インスタントラーメン、レトルト食品、フリーズドライ食品、乾物、乾燥保存
用食品
□缶詰(果物缶は糖分、水分もとれ有効。魚、コンビーフなどのタンパク質とな
るもの、コーン、大豆など素材缶も便利)
□缶ドロップ
□チョコレート、キャラメル
□ジャム、ゼリー状栄養補給食品

●飲料品
□ミネラルウオーター
□ペットボトル飲料
□スポーツドリンクなどの粉末飲料
□水(生命維持に必要な飲料水の量は1日3リットル程度)

●日用品・医療品
□常備薬(胃腸薬、ビタミン剤など)、持病の薬など
□解熱剤(アセトアミノフェン)
□包帯やガーゼ、外傷治療薬(軽いケガは自分で手当て)
□ゴム手袋(汚染されたものを捨てたり、扱ったりしなければならない時のため

□マスク(使い捨て)
□うがい薬
□水枕、冷却枕、保冷剤、解熱シートなどの冷却用品
□洗剤・漂白剤
□消毒用アルコール
□カセットコンロ、ボンベ
□懐中電灯、乾電池
□ビニール袋(密閉して捨てるために必要)
□洗濯ロープ(感染予防のため洗濯物は室内干しに)
□トイレットペーパー、ティッシュペーパー、生理用品
□ウエットティッシュ
□多少の現金(カード類が使用できない場合も)

岡田晴恵さんの著書「H5N1型ウイルス襲来」を参考に編集部で作成



(読売ウイークリー2008年2月24日号より)


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